毎日のように残業していますが、15分未満は残業代を出さないと言われて。
サービス残業は違法です。業界の現状と対策について解説します。
介護業界は、日本社会の高齢化が進展する中、ますますその重要性が増しています。しかし、一方で、人手不足や業務量の増加など、深刻な問題を抱えています。
これらの問題が、介護職員のサービス残業を招き、現場を疲弊させているのです。
本記事では、介護職におけるサービス残業の実態、その背景、そして解決策について、具体的な事例を交えながら詳しく解説していきます。
介護職におけるサービス残業の実態
介護業界で働く皆さんは、利用者の方々に質の高いケアを提供するために日々尽力されています。しかし、その一方で、人手不足や業務量の増加といった問題を抱え、サービス残業に悩まされている方も多いのではないでしょうか。
なぜ、介護職ではサービス残業が問題となっているのでしょうか?
介護職員の残業状況
介護職員の残業状況は、施設の種類や勤務形態、地域などによって大きく異なりますが、一般的には、人手不足や業務量の増加を背景に、多くの介護職員がサービス残業を行っているという現状があります。
厚生労働省の調査によると、介護職員の4人に1人がサービス残業を行っているというデータがあります。
また、介護職の1週間の平均残業時間は1.6時間とされています。しかし、これは平均値であり、施設によってはもっと長時間残業している職員もいます。
出典:公益財団法人介護労働安定センター 令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について
サービス残業が生まれる背景
サービス残業が生まれる背景は、多岐にわたります。特に介護業界においては、以下の要因が複雑に絡み合って、サービス残業が慢性化していると考えられます。
- 高齢化の進展: 高齢者人口の増加に伴い、介護サービスの需要が急激に高まっています。
- 人員の不足: 介護職員の数が需要に追いついていないため、一人あたりの負担が大きくなっています。
- 離職率の高さ: 介護職は肉体的にも精神的にも負担が大きく、離職率が高いことも人手不足の一因となっています。
- 医療ニーズの高まり: 高齢者の医療ニーズが高まり、介護職員の業務範囲が拡大しています。
- 記録業務の増加: 介護記録は法的に義務付けられており、その量は年々増加傾向にあります。
- 感染症対策: 感染症対策の強化により、消毒や清掃など、新たな業務が増えています。
- 低賃金: 介護職員の賃金は、他の職業と比較して低い傾向にあります。
- 非正規雇用比率の高さ: 非正規雇用で働く介護職員が多く、福利厚生が充実していないケースも少なくありません。
- 長時間労働の慣習: 介護業界では、長時間労働が当たり前という考え方が根強く残っている場合があります。
- 利用者の急な体調変化: 利用者の体調は刻々と変化し、緊急対応が必要になることがあります。
- 利用者からの要求: 利用者から様々な要求があり、それらにこたえようとすると、どうしても時間が足りなくなってしまうことがあります。
サービス残業は当たり前と思っていませんか?
「介護職はサービス残業が当たり前」という考え方は、残念ながら根強く残っています。しかし、サービス残業は法律で認められていない行為であり、労働基準法違反にあたります。
1 .サービス残業は違法である
労働基準法では、1日の労働時間を8時間、1週間の労働時間を40時間と定めており、これを超えて労働させる場合は、事前に労使協定を結ぶなど、一定のルールが定められています。サービス残業とは、これらのルールを無視して、残業代を支払わずに労働させることを指し、労働基準法違反にあたります。
長時間のサービス残業を続けることは、労働者の心身に大きな負担をかけ、うつ病やバーンアウトなどの原因となります。また、疲弊した状態で業務を行うと、ミスが増えたり、サービスの質が低下したりする可能性があります。
2.なぜサービス残業が横行しているのか?
大変な仕事というイメージの介護職では「残業は当たり前」という業界文化が根付いており、サービス残業を助長していることがあります。
また、労働時間を正確に把握・管理するシステムが整備されていなかったり、労働時間が厳密に管理されていないケースや人材が不足しているため、残業せざるを得ない状況に陥っている場合もあります。
介護現場では、利用者の急な体調変化や、夜間の緊急対応など、予期せぬ事態が発生することが多く、労働基準法を厳密に守ることが難しい側面もあります。しかし、だからといってサービス残業が正当化されるわけではありません。
介護職のサービス残業をなくすためにできること
介護職のサービス残業は、労働者の負担を大きくし、サービスの質低下にもつながる深刻な問題です。この問題を解決するためには、多角的なアプローチが必要です。
サービス残業をなくす4つのポイント
- 人員配置の改善: 職員数を増やし、一人当たりの負担を減らすことで、残業を減らすことができます。
- 業務の見直し: 業務内容を見直し、効率化を図ることで、労働時間を短縮できます。記録業務の簡素化、ICTツールの導入などが考えられます。
- 労働時間管理の徹底: 労働時間を正確に記録し、残業が発生した場合には適切な残業代を支払うことが重要です。
- 労働環境の改善: 休息時間や休憩時間の確保、職場環境の改善など、働きやすい環境を整えることで、職員のモチベーションを高め、離職を防ぎます。
- 多様な働き方の導入: フレックスタイム制やテレワークなど、多様な働き方を導入することで、仕事と生活のバランスを取りやすくし、残業を減らすことができます。
- 新人教育の充実: 新人教育を充実させ、業務に早く慣れてもらうことで、ベテラン職員の負担を減らすことができます。
- キャリアアップ支援: キャリアパスを明確にし、職員が目標を持って働けるようにすることで、モチベーションを高め、定着率を向上させます。
- 専門性の高い人材の育成: 専門性の高い人材を育成することで、業務効率化につながり、残業を減らすことができます。
- 労働時間の記録: 労働時間を正確に記録し、残業が発生した場合には、必ず申告することが重要です。
- 相談: 会社の相談窓口や労働組合に相談し、問題解決に向けて積極的に行動することが大切です。
- 自己啓発: 自分のスキルアップを図り、業務効率を上げることで、残業を減らすことができます。
- 介護報酬の見直し: 介護報酬の見直しを行い、人材確保や労働環境改善のための財源を確保する必要があります。
- 社会全体の意識改革: 介護の仕事に対する社会全体の理解を深め、介護職員の労働環境改善に向けて、より一層の取り組みが求められます。
- 労働基準法の厳格な執行: 労働基準監督署による指導や監査を強化し、法令違反を防止する必要があります。
残業を減らせた具体的な事例
以下は、残業を減らすために取り組まれている具体的な事例です。
事例1
ある介護施設では、記録業務の効率化のために、電子カルテを導入し、大幅な時間短縮に成功しました。また、職員同士で業務分担を行い、お互いをサポートすることで、残業時間を減らすことができました。
事例2
ある自治体では、介護職員の待遇改善のため、賃上げや手当の支給を行っています。また、キャリアアップの支援制度を充実させ、職員のモチベーション向上を図っています。
まとめ
介護職のサービス残業は、職員の心身への負担だけでなく、サービスの質の低下にもつながる深刻な問題です。この問題を解決するためには、職員一人ひとりの意識改革はもちろん、施設や事業者、国や自治体など、社会全体の取り組みが求められます。
働きやすい職場を選ぶことは、職員のモチベーション向上につながり、ひいては利用者へのサービスの質向上にもつながります。介護業界全体で、サービス残業のない、働きがいのある職場づくりを目指していくことが重要です。